ヨーロッパ王室の紋章を7か国比較
ヨーロッパ王室の紋章を7か国比較
ヨーロッパ王室の紋章は、イギリス、フランス、ハプスブルク家から派生したオーストリアやスペイン、ロシア、スウェーデン、デンマークまで、7つの王家を同じ物差しで見比べられる体系として読める。
ヨーロッパ王室の紋章は、イギリス、フランス、ハプスブルク家から派生したオーストリアやスペイン、ロシア、スウェーデン、デンマークまで、7つの王家を同じ物差しで見比べられる体系として読める。
大河ドラマや Game of Thrones、FGO、ファイアーエムブレムで紋章を見て「なぜこのデザインなのか」と気になった瞬間にこそ、ライオン、百合、双頭の鷲がどこで共有され、何を背負ってきたのかが見えてきます。
比較の軸は、盾に描くモチーフであるシャルジ、色彩のルールであるティンクチャー、そして複数の紋章を一枚に組み合わせるマーシャリングの3つだ。
日本の家紋が単一モチーフで「家」を示すのに対し、西洋王室紋章は領土や婚姻、継承の歴史を盾に圧縮する発想でできている。
目的別・ヨーロッパ王室紋章の早見表
ヨーロッパ王室の紋章は、動物や植物の図柄そのものだけでなく、色の組み合わせや盾の分割まで見れば、王朝の歴史を一枚に圧縮した記号だとわかります。
海外旅行で城や教会、紙幣の紋章を見比べると、国ごとにライオンが前足を上げるのか、百合が並ぶのか、双頭の鷲が広がるのかがはっきり分かれ、見る順番まで変わってきます。
ニュースで英国王の紋章入り文書を見たときにライオンとユニコーンの意味が気になった、という入口もここに重なります。
こんな人はこの王家から読むべき早見表
海外ドラマや大河で見た王家の紋章をまず押さえたいならイギリス、フランス、スペインから入ると見通しが立ちます。
帝国の広がりや婚姻で領土を束ねた仕組みに興味があるならハプスブルク家/オーストリアとロシアが向いています。
配色や図案の理由を知りたい人はフランス、北欧の王室文化を比べたい人はスウェーデンとデンマークを読むと、おすすめです。
この導線は、単なる「どの国の紋章か」を覚えるためのものではありません。
王家ごとの見え方の違いを先に押さえると、あとでライオン、百合、双頭の鷲、三つの王冠を見た瞬間に背景まで読み取れるようになります。
まず自分の関心に近い王家から入ってみてください。
そこがいちばん早いでしょう。
ℹ️ Note
イギリスのモットー Dieu et mon droit(神と我が権利)はフランス語です。王権の言葉が国境をまたいで使われている事実だけでも、王室紋章が共通文化として育ってきたことが見えてきます。
7王家・代表モチーフ統一比較表
| 王家 | 国・王朝 | 代表モチーフ | 主な色 | 由来のおよその年代 | 象徴する意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| イギリス | イングランド王室 | 3頭のライオン、ユニコーン、四分割盾 | 赤・金・白 | 1707年統合 | 王権、連合、統合された領土 |
| フランス | フランス王権・ブルボン家 | フルール・ド・リス | 青・金 | 12世紀ルイ7世期 | 王権、純潔、聖性 |
| ハプスブルク家/オーストリア | 神聖ローマ帝国・ハプスブルク家 | 双頭の鷲 | 黒・金 | 1440〜1740年 | 東西支配、皇帝権 |
| スペイン | スペイン王室 | 城、獅子、縞、鎖、ザクロ | 赤・金・白・緑 | 1479年合併 | 諸王国の統合 |
| ロシア | ロシア帝国 | 双頭の鷲、3つの王冠 | 金・黒・赤 | 1625年 | 第三のローマ、主権 |
| スウェーデン | スウェーデン王室 | 3つの王冠 | 青・金 | カルマル同盟期 | 同君連合、王権の広がり |
| デンマーク | デンマーク王室 | 3頭の青いライオン、9つの赤いハート | 金・青・赤 | 12世紀クヌーズ4世 | 勇気、忠誠、王国の連続性 |
比較の3つの視点
見る物差しは3つあります。
第一にモチーフで、シャルジとして何が描かれているかを見ると、ライオン系、百合系、鷲系の系譜がすぐ分かります。
第二に色、つまりティンクチャーで、金属色の金・銀と原色の青・赤・紫・緑・黒がどう組み合わされるかを追うと、王権の格式が見えてくるはずです。
第三に盾の分割、マーシャリングで、どの王国や婚姻が一枚の盾に束ねられたかを読むことになります。
この3視点は、後続のモチーフ整理、色彩の意味、統合紋章の読み解きにそのまま対応します。
たとえばイギリスの四分割やスペインの複合盾は、領土の歴史をそのまま見せる装置ですし、イギリスのライオンとユニコーン、スウェーデンの三つの王冠は、盾の外側まで含めた一式で意味を持ちます。
日本の家紋が単一モチーフで家を表すのに対し、西洋王室紋章は婚姻と継承の履歴まで書き込む。
ここが面白いところです。
ライオンを掲げる王家:イギリス・スペイン・デンマーク
西洋紋章で最もよく使われる動物がライオンです。
勇猛、王権、気高さをひと目で伝えられるためですが、実際には頭数、姿勢、地色の組み合わせで意味が細かく分かれます。
同じライオンでも、イングランド、スコットランド、スペインのレオン、デンマークではまったく別の顔になる。
その違いこそが、各王家の歴史を盾の上に凝縮したものです。
イングランドの3頭のライオンとスコットランドの獅子
イングランド王室紋章は赤地に金色のライオン3頭で、しかも横向きに進みながら顔だけをこちらへ向けるパッサント・ガーダントの姿勢です。
サッカーのイングランド代表エンブレムのスリーライオンズを見たとき、これが王室紋章由来だと知って驚く人は少なくないでしょう。
いっぽうスコットランドは金地に赤いライオン1頭、後ろ足で立ち上がるランパントで、同じイギリス内でも地色と姿勢が鮮やかに対照をなします。
3頭か1頭か、進む姿か立ち上がる姿か、その違いだけで王権の語り口が変わるのです。
| 王家 | 地色 | ライオンの数 | 色 | 姿勢 | 印象 |
|---|---|---|---|---|---|
| イングランド | 赤地 | 3頭 | 金色 | パッサント・ガーダント | 秩序、継承、格式 |
| スコットランド | 金地 | 1頭 | 赤 | ランパント | 躍動、独立、緊張感 |
この対比は、単なる見た目の違いではありません。
イングランドの3頭は、複数の王権を束ねてきた重みを感じさせ、スコットランドの1頭は、孤高で攻める力を前面に出します。
西洋紋章では、動物そのものよりも「どう置くか」が意味を決めるのだと分かります。
スペイン国章のレオン王国の獅子と城
スペイン国章で目を引くのは、カスティーリャの城とレオン王国の獅子が並ぶ構図です。
レオン部分の獅子は紫がかった色調で、レオンという地名自体がライオンを連想させます。
城と獅子を左右に配した盾は、2つの王国が統合されていく過程を図像として固定したもので、政治史をそのまま図案化した例だと言えます。
ここではモチーフの美しさより、統合の記憶をどう残すかが前面に出ています。
レオンの獅子は、イングランドの3頭と似た「王権の動物」でも、役割は違います。
イングランドが単一王権の威厳を押し出すのに対し、スペインでは城と獅子が対になって、複数の王国の並立と合流を示すのです。
盾の上で歴史を読ませる、これが西洋紋章の面白さでしょう。
デンマークの青いライオンと9つのハート
デンマークの国章は、金地に王冠をかぶった青いライオン3頭と9つの赤いハートから成ります。
起源は12世紀クヌーズ4世の紋章にさかのぼり、13世紀から王冠が加わり、16世紀にハートの数が9つに確定しました。
王冠付きの3頭という点だけを見るとイングランドと似て見えますが、背景の金地、青いライオン、赤いハートが加わることで、別系統の紋章であることがすぐに分かります。
デンマーク王室関連の品やコインでこの青いライオンとハートの紋章を見たとき、てっきりイングランドと同じかと思ったら全く別物だった、という気づきが生まれます。
3頭のライオンという共通項があっても、色、補助図形、歴史の積み重ねが違えば意味は変わるのです。
ライオンは王権と勇猛の象徴でありながら、国ごとの記憶を背負って姿を変える。
そこに、紋章を読む醍醐味があります。
百合を掲げる王家:フランス・ブルボン家
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | フルール・ド・リス(百合の紋章) |
| 配色 | 青地に金の百合 |
| 起源伝説 | 493年、メロヴィング朝のクローヴィス1世がアラマン族との戦いで天使から百合を授かったという起源譚 |
| 象徴 | 3枚の花弁が神・創造・王権、あるいは三位一体・聖母マリアの純潔を示す |
| 公式採用 | 12世紀ルイ7世の時代に王家の紋章として定着 |
| 王朝的継承 | ブルボン王朝までフランス王権の視覚記号として機能 |
青地に金の百合で描かれるフルール・ド・リスは、ライオンと並ぶ西洋紋章の代表的なモチーフです。
動物ではなく植物を国家象徴の中心に据えたところに、この紋章の独自性があります。
ブランドのロゴやアンティークジュエリー、トランプの意匠で見かけて、あとからフランス王家の系譜につながると知ることも少なくありません。
ニューオーリンズやフィレンツェのように、フランス王家と直接結びつかない土地で使われている例に触れると、その伝播の広さがよくわかります。
フルール・ド・リスの起源伝説
フルール・ド・リスの伝説は、493年のクローヴィス1世にさかのぼります。
メロヴィング朝の王がアラマン族との戦いで苦戦したとき、天使が百合を授け、それによって戦況を覆したという起源譚です。
ここで百合は単なる植物ではなく、王権が神から与えられたものであることを示す印になりました。
史実としての厳密な裏づけと伝説の層は分けて読むべきですが、王の勝利を天上の加護に結びつける発想そのものが、この紋章の出発点だといえるでしょう。
この起源譚が重要なのは、フランス王権の正当性が武力だけでなく、神意によって支えられるという物語を作った点にあります。
西洋紋章では、ライオンや鷲のような強さの記号が多いものの、フルール・ド・リスは天使と結びつき、祝福のイメージを帯びる。
強さの証明ではなく、選ばれた者の印として機能するところに、百合の紋章の重みがあります。
3枚の花弁が象徴するもの
百合の3枚の花弁には、複数の意味が重ねられています。
王権、創造、神という読みがあり、キリスト教的には三位一体や聖母マリアの純潔を示すともされます。
1つの形に意味を集約するのではなく、異なる宗教的・政治的解釈を同居させるのが西洋紋章の面白さです。
だからこそ、このモチーフは王家の格式を示しながら、同時に信仰の言葉でも読めるようになっています。
同じ花の形でも、見る角度によって受け取られ方が変わるのです。
百合を掲げることは、王が神の秩序の下にあると示す行為であり、国家の象徴を宗教的な純潔と接続する振る舞いでもある。
こうした重層性があるから、フルール・ド・リスは単なる装飾にとどまらず、長く記憶される記号になりました。
ブルボン王朝と百合の盾
フルール・ド・リスが公式な王家紋章として整ったのは、12世紀ルイ7世の時代です。
そこからブルボン王朝に至るまで、青地に金の百合はフランス王権を示す最強のビジュアルアイコンとして機能しました。
王の盾に描かれた百合は、血統と統治の正統性を一目で伝えるための装置であり、王家の威信を視覚化する役割を果たしたのです。
この図柄には、アイリスとの語源混同、すなわちイリス→リスとされる説も重なります。
植物の同定をめぐる揺れがあるにもかかわらず、百合の名は王権の象徴として定着しました。
実際に各地の紋章や意匠で見比べると、フランス王家由来の記号がいかに広く移植され、再解釈されてきたかが見えてきます。
そこまで含めて、百合の盾はブルボン家の記憶を今に伝えるものです。
双頭の鷲を掲げる王家:ハプスブルク家・ロシア
双頭の鷲は、二つの頭で東西両世界を見渡すことで、ローマ帝国の正統な後継者であるという主張を視覚化した紋章です。
オーストリアやウィーンの建築装飾でこの鷲を見たあと、ロシアの紋章にも同じ図像があると気づくと、両者が地理的には離れていても、同じ継承思想の上に立っていることがはっきり見えてきます。
Game of Thrones やゲームの帝国系勢力でも双頭の鷲がたびたび登場しますが、あれも元をたどればローマ継承のイメージに連なります。
双頭の鷲が意味する東西の支配
双頭の鷲は、単なる装飾ではなく、東西を同時に支配する力を示す政治記号です。
13世紀のビザンツ帝国末期、パレオロゴス朝がこの図像を採用し、東ローマ帝国がなお両世界を束ねる存在であることを示しました。
だからこそ、この鷲は「帝国の中心は一つではない」という感覚を、たった一つの図像で語れるのです。
このモチーフが強いのは、征服の勢いだけでなく、正統性の演出にも向いているからでしょう。
東と西を別々に見る二つの頭は、分断された世界を統合する視線そのものです。
ローマ帝国の後継を名乗る王家にとって、これほど都合のよい象徴はありませんでした。
ハプスブルク家と神聖ローマ帝国の鷲
双頭の鷲はその後、神聖ローマ帝国の紋章として受け継がれ、ハプスブルク家の事実上の家紋へと変わっていきます。
神聖ローマ帝国の皇帝位を1440年から1740年までハプスブルク家が継続保持した事実を考えると、この図像は単なる帝国の印ではなく、王朝そのものの顔になったと言ってよいでしょう。
皇帝権と家門の威信が重なった結果、鷲は制度の象徴であると同時に血統の象徴にもなりました。
| 比較項目 | ビザンツ帝国末期パレオロゴス朝 | 神聖ローマ帝国・ハプスブルク家 |
|---|---|---|
| 採用の背景 | 東西統一の強調 | 皇帝位の継続保持 |
| 図像の役割 | ローマ継承の主張 | 帝国権威の可視化 |
| 象徴の性格 | 東ローマの後継意識 | 事実上の家紋化 |
ハプスブルク版の要点は、鷲が「帝国の広がり」を示すだけでなく、「どの家が帝国を担うのか」を明確にした点にあります。
建築の飾りや紋章の中で繰り返し見かけるほど、この図像は権力の文法として定着していったのです。
東西をまたぐ視線が、そのまま皇帝の視線になったのである。
ロシア・ロマノフ朝への継承と聖ゲオルギオス
ロシアへの継承は婚姻が鍵でした。
モスクワ大公イヴァン3世がビザンツ最後の皇帝の姪ゾエ・パレオロギナと結婚し、1453年のコンスタンティノープル陥落後に双頭の鷲を採用したことで、モスクワは第三のローマだという継承意識が紋章の形を取ります。
ここでは血縁と象徴が結びつき、帝国の亡霊ではなく、正統な後継者としての自己像が組み立てられました。
ロシアの紋章では、双頭の鷲だけでなく、槍で蛇を刺す騎乗の戦士、聖ゲオルギオスが盾に描かれます。
さらにロマノフ朝最初のツァーリ・ミハイルの治世、1625年に双頭の鷲が3つの王冠で装飾され、同じ鷲でもハプスブルク版とは異なる政治的意味を帯びました。
王冠の数や脇に置かれる図像の違いは、ロシアが帝国の継承を自国化し、独自の君主権へ作り替えた痕跡だと読めます。
| 項目 | ハプスブルク家 | ロシア・ロマノフ朝 |
|---|---|---|
| 継承の筋道 | 神聖ローマ帝国の皇帝位 | イヴァン3世とゾエ・パレオロギナの婚姻 |
| 双頭の鷲の位置づけ | 帝国と家門の象徴 | モスクワ=第三のローマの象徴 |
| 付属図像 | 皇帝権を示す構成 | 聖ゲオルギオス、3つの王冠 |
この比較を見ると、双頭の鷲は「同じ図柄だから同じ意味」という単純な記号ではありません。
ハプスブルク家では帝国の連続性を、ロシアではビザンツの遺産を引き受ける新しい中心を、それぞれ表していたのです。
だからこそ、ひとつの鷲がウィーンでもモスクワでも生き続けたのでしょう。
色とデザインルールで読み解く紋章:ティンクチャーの基礎
ティンクチャーは、紋章に使う色を思いつきで選ぶのではなく、金属色・原色・毛皮模様の3つに整理して扱うための共通言語です。
ここを押さえると、王室紋章は飾りの集まりではなく、配色そのものに意味と秩序を持つ図像だと見えてきます。
青と赤を隣り合わせにしてもどこか締まらないと感じた経験がありましたが、後で配色原則を知ると、その違和感にも筋が通りました。
紋章の色=ティンクチャーとは
紋章学でいうティンクチャーは、単なる「色」ではありません。
オーア=金、アージェント=銀の金属色2色、アジュール青・ギュールズ赤・パーピュア紫・ヴァート緑・セーブル黒の原色5色、そしてアーミンとヴェアの毛皮模様2種に分かれます。
名称まで決まっているのは、どの紋章も同じ記号体系で読めるようにするためで、王家ごとの違いはモチーフだけでなく、この配色の選び方にも表れます。
実際に、複数国の国章を並べて見ると、金と青、金と赤の組み合わせが目につきます。
偶然の統一感ではなく、共通のルールがあるからです。
色名を覚えることは暗記ではなく読解の準備であり、配色を見ただけで系統や格調の方向まで推測できるようになります。
ここが面白いところでしょう。
金属色と原色を重ねないルール
ティンクチャーには、金属色の上に金属色を置かず、原色の上に原色を重ねないという基本原則があります。
つまり、金地に銀の図柄を載せたり、青地に赤を重ねたりすると、紋章としての視認性が落ちるだけでなく、作法にも外れるわけです。
逆に、原色のアジュールの上に金属色のオーアを置けば、強い対比が生まれて遠目にも判別しやすくなります。
フランスの青地に金の百合は、その正統な配色例です。
青の面に金が浮かぶと、明暗の差がはっきりして、輪郭も象徴も一気に立ち上がります。
模写で青と赤を隣り合わせにすると締まらないと感じたのは、この対比の設計を無意識に外していたからだと後で腑に落ちました。
理由はシンプル。
見やすさと意味の両方を、色の階層で支えているからです。
ℹ️ Note
ルールを覚えると、配色の正否を自分で判定できます。地が金属色か原色かを先に見て、載る図柄が反対側の属性になっているかを確かめてみてください。
王室紋章を色で見分ける
王室紋章は、モチーフが似ていても色で見分けると整理しやすくなります。
たとえば金と青の組み合わせは誠実や忠誠、金と赤は勇気や武勇と結びつきやすく、色が意味の方向を決めています。
赤は勇気・武勇、青は誠実・忠誠、金は高貴・寛容という象徴が伝統的に与えられているため、同じ百合や獅子でも、背景のティンクチャーが変われば印象は大きく変化します。
配色を読むと、紋章はモチーフと色の二重構造で情報を送っていると分かります。
百合そのものが王権を示すだけでなく、その百合を金で描き、青地に置くことで、王家の格や忠誠の理想まで重ねて表現するのです。
紋章を模写するなら、形だけでなく地と図の関係まで追ってみてください。
そうすると、各王家の配色がこのルールに従いながら、どう個性を出しているかが見えてきます。
盾の分割が語る歴史:マーシャリングと統合
西洋紋章で盾を分割して複数の紋章を重ねるマーシャリング、なかでもクォータリングは、婚姻・征服・継承によって増えた領地や権利を一枚の図像に畳み込む仕組みです。
イギリス連合王国の四分割盾やスペイン国章の多層構成を見ると、国章が単なる装飾ではなく、どの家系とどの王国を引き継いだかを示す記録装置だとわかります。
日本の家紋に比べると、この「複数の由来を同居させる」発想がきわめて前面に出ているのが特徴です。
イギリス連合王国の四分割盾
イギリスのパスポートや硬貨の紋章をよく見たとき、盾が4つに区切られて違う絵が入っていることに初めて気づきました。
左上と右下に赤地のイングランド3頭ライオン、右上に金地のスコットランド赤ライオン、左下に青地のアイルランドの金の竪琴が配され、四分割の中に構成国の来歴がそのまま残っています。
1707年のイングランド・スコットランド統合で現国章の原型が制定された流れを踏まえると、これは統合の記念碑であると同時に、併存の宣言でもあるでしょう。
四分割の読み方がわかると、盾の見え方が変わります。
ひとつの王国の象徴に見えたものが、実際には複数の政治体をつなぎ合わせた結果だと理解できるからです。
クォータリングは、支配者がどの土地の権利を持つのかを視覚化する技法であり、王朝の連結点を一目で示す装置だといえます。
スペイン国章に詰まった5つの王国
スペイン国章はさらに情報量が多く、城=カスティーリャ、獅子=レオン、赤黄の縞=アラゴン、鎖=ナバラ、ザクロ=グラナダという5王国の紋章で構成されています。
最初に見たときは、なぜ城やライオンやザクロがここまで詰め込まれているのか分かりませんでした。
ところが各区画が別々の王国だと知った瞬間、盾は一気に読める図になりました。
1479年アラゴンとカスティーリャの合併でスペイン王国が成立し、カトリック両王が共同統治した歴史を考えると、この国章はレコンキスタと王朝統合の結果をそのまま背負っています。
個別の意匠は見た目の飾りではなく、征服と継承の順番を刻む記号です。
だからこそ、スペイン国章は「どの王国を束ねたか」を説明する図として機能します。
| 紋章要素 | 対応する王国 | 読み取れる歴史 |
|---|---|---|
| 城 | カスティーリャ | 王権の中核 |
| 獅子 | レオン | 旧王国の継承 |
| 赤黄の縞 | アラゴン | 連合王朝の系譜 |
| 鎖 | ナバラ | 領域の接続 |
| ザクロ | グラナダ | レコンキスタの到達点 |
分割が映す婚姻・統合の歴史
盾の分割は、どの王国・家系を継いだかを可視化する装置です。
婚姻で結ばれた家、征服で獲得した土地、継承で引き継いだ権利が、線で区切られた区画として残るので、王家の系図と領土史を読み解く鍵になります。
日本の家紋が比較的単一の意匠を磨き上げる方向に寄るのに対し、西洋紋章は複数の由来を同じ盾に同居させる発想が前面に出ます。
この違いを押さえると、国章を見る目が変わります。
ひとつの図柄を眺めるのではなく、「この区画は何の紋章か」と分解して読むわけです。
そうして初めて、マーシャリングは装飾ではなく歴史そのものだと見えてきます。
おすすめです。
支えるもの・冠るもの:サポーターとクレストの比較
王室紋章は盾だけで終わりません。
盾を支えるサポーター、上に載るクレストや王冠、そして帯状のモットーまで含めて、ひとつの完成した紋章になります。
外側の要素に目を向けると、7王家の違いがいっそうはっきり見えてきます。
盾を支えるサポーターの動物たち
イギリス王室紋章のサポーターは、イングランドを表すライオンと、スコットランドを表すユニコーンです。
盾の左右に立つこの2頭は、単なる飾りではなく、構成国それぞれの象徴を対にして配置した設計だと読めます。
王権を支える力が一つではなく、複数の歴史的な土地から成ることを視覚化しているのです。
この配置を見ると、紋章は「家の印」以上のものだとわかります。
どの王家が掲げても、盾の外側に何を置くかで政治的な結びつきや王権の広がりを示せるからです。
比較の軸をここに置くと、各王家が何を重視してきたかが見えます。
ユニコーンが鎖でつながれる理由
ユニコーンが鎖でつながれているのを初めて見たとき、その理由が気になりました。
伝説上、ユニコーンはきわめて危険な獣とされるため、鎖でつながれた姿で表されます。
そこには、スコットランドが連合王国に強く結びつき、離脱しないことを示す象徴的な読みも重ねられています。
この細部が面白いのは、暴れる獣を縛るという単純な図像では終わらない点です。
危険さと従属、誇りと統合が同時に入っているため、見る側は「なぜ鎖なのか」と考えざるをえません。
そこに意味があるから、紋章は長く記憶に残るのです。
クレスト・王冠・モットーの読み方
クレストは盾の上に載る兜飾りで、王冠は王権の格を示し、モットーはその紋章が何を掲げるかを言葉で固定します。
イギリスには盾下の Dieu et mon droit(神と我が権利)と、ガーター帯に記された Honi soit qui mal y pense(悪意を抱く者に災いあれ)の2つがあり、前者は王権の正統性、後者は騎士団的な名誉を語ります。
特に後者は、エドワード3世が1348年頃創設したガーター勲章のモットーに由来するのが重要です。
言葉が加わると、紋章は図像だけの記号ではなくなります。
王冠、クレスト、モットーがそろって初めて、誰が何を名乗るのかがはっきりするからです。
スウェーデンの三つの王冠、つまりトレ・クロノールも同じで、デンマーク・ノルウェー・スウェーデンの同君連合を象徴するとされます。
スポーツ中継でスウェーデン代表がトレ・クロノールと呼ばれるのを聞いたとき、王室紋章の図案が今も生きていると実感しました。
紋章は過去の遺物ではなく、現在の呼び名にまで残る文化なのです。
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