欧米の大学の紋章|オックスフォード等の意匠を読み解く
欧米の大学の紋章|オックスフォード等の意匠を読み解く
大学の紋章は、オックスフォード大学とケンブリッジ大学を見比べるだけでも、開いた本と閉じた本の違いに明確な意味があるとわかる意匠である。オックスフォードのDominus Illuminatio Meaを載せた開いた本と三つの金の王冠、ケンブリッジの赤地に白貂の十字と中央の閉じた本は、
大学の紋章は、オックスフォード大学とケンブリッジ大学を見比べるだけでも、開いた本と閉じた本の違いに明確な意味があるとわかる意匠である。
オックスフォードの『Dominus Illuminatio Mea』を載せた開いた本と三つの金の王冠、ケンブリッジの赤地に白貂の十字と中央の閉じた本は、どちらも見た目の飾りではなく、紋章学のルールに沿って大学の権威を語っている。
海外大学の校章グッズや卒業証書、留学資料を意味が分かる目で見直すと、同じ本でも開閉で役割が変わることまで見えてくる。
さらにハーバード、イェール、ボローニャ、スコットランドの大学まで視野を広げれば、本・王冠・ライオン・十字が、大学紋章を権威とアイデンティティの視覚表現として結びつけていると実感できるでしょう。
大学に紋章があるのはなぜ?アカデミック・ヘラルドリーの成り立ち
大学に紋章があるのは、飾りのためだけではありません。
もともと紋章は12世紀、おおむね1120〜1160年頃の北ヨーロッパで、甲冑で顔が見えない騎士を戦場や馬上槍試合で見分けるための実用品として生まれました。
そこから中世後期にかけて、聖職者、都市、ギルド、さらに王室勅許を受けた大学や交易会社へと広がり、組織の権威を目で示す共通言語になっていきます。
騎士の盾から学問の象徴へ:紋章が大学に広がった経緯
大学が紋章を持つ理由は、武勲の名残ではなく、組織としての正統性を視覚化する仕組みを受け継いだからです。
編集部で大学の紋章を並べてみると、本、王冠、ライオン、十字といった部品が国を越えて繰り返し現れましたが、これは偶然ではありません。
王室勅許で認められた学問共同体が、自分たちの権威を都市やギルドと同じ文法で示した結果だと考えると、全体像が見えやすくなります。
大学紋章は、戦場の個人識別から始まった意匠が、知の共同体の記号へ変わった例である。
近年ロゴだけ見慣れていた大学の正式な紋章を初めて見ると、装飾の細かさと意味の密度に驚かされます。
大学紋章を構成する4つの要素
紋章の基本は、シールド(盾)とモットー(標語)、そしてクレスト(盾上の立体的飾り)やサポーターなどの付属要素で成り立っています。
とくに大学紋章では盾が中心で、その上に本や王冠、動物などの charge が置かれ、学問・権威・地域性を一枚の図像にまとめます。
たとえばオックスフォードでは開いた本と『Dominus Illuminatio Mea(主はわが光、詩篇27篇1節)』が組み合わされ、ケンブリッジでは赤地に白貂の十字、4頭の金のライオン、中央の閉じた本が並びます。
両校は同じ「本」を使いながら、開いた本は顕示、閉じた本は助言と意味を分けるのが紋章学の面白さです。
この共通文法を押さえると、個別大学の違いは装飾の好みではなく、何をどう見せたいかの選択だと分かります。
ボローニャの『Alma Mater Studiorum』やA.D.1088、ハーバードの3冊の開いた本と『VERITAS(真理)』、イェールの『Lux et Veritas』とヘブライ語『Urim v'Thummim』も、同じ枠組みで読むと配置の意味が揃って見えてきます。
大学の紋章・校章・ロゴ・シールはどう違うのか
大学の紋章、校章、ロゴ、シールは似て見えても同一ではありません。
紋章は紋章官の授与を経た公的意匠で、授与制度そのものが権威の核になります。
ロゴは近代以降の簡略化された視覚識別で、運用しやすさを優先する設計です。
シールは印章として文書の真正性を示す役割が強く、多くの大学はこの3系統を併用しています。
ここを混同しないことが、大学紋章を読む第一歩です。
スコットランドのエディンバラやセント・アンドルーズのように聖アンデレ十字を共有する大学もあれば、Oxbridge のように大学本体とは別に各カレッジが独自の紋章を持つ例もあります。
図像の意味と授与制度の両輪で見ると、大学紋章は単なる飾りではなく、制度と歴史を背負った学問の標識になるのです。
オックスフォード大学の紋章|開いた本と3つの王冠の意味
オックスフォード大学の紋章は、開いた本を中心に据えた大学紋章で、赤い本革と金の装飾がまず目を引きます。
編集部で拡大して眺めると、本のページに細かなラテン語が刻まれていることに気づき、その瞬間に図像が単なる飾りではなく、学問の意味を背負った記号だとわかります。
さらに、この紋章はおよそ1400年頃から存在しながら、細部の形を少しずつ変えてきた。
固定不変の記号ではなく、時代ごとに読み替えられてきた意匠なのです。
『Dominus Illuminatio Mea』というモットーの出典と意味
盾の中央にある開いた本には『Dominus Illuminatio Mea』と記され、これは詩篇27篇1節(ウルガタ訳)の冒頭です。
意味は「主はわが光」。
大学の知の中心に、学問だけでなく信仰の光源を置く構図になっており、オックスフォードが自分たちの学びを単なる技術や知識の集積としては見ていないことがよくわかります。
開いた本であることにも意味があり、閉ざされた秘密ではなく、読まれ、解かれ、共有されるべき真理を示しているのです。
大学紋章では本・王冠・十字のような記号が繰り返し現れますが、ここでは本そのものが最も強い核になります。
紋章学では、何を置くか以上に、何を開いて見せるかが重要であるのだ。
本に並ぶ7つの封印=七自由学芸という読み解き
本の右側、dexter に並ぶ7つの封印は、七自由学芸を表すと解されてきました。
文法、修辞、論理、算術、幾何、天文、音楽という七つの学問が、大学教育の基礎を成すという発想です。
七自由学芸という言葉だけでは抽象的ですが、封印が7つという「数」にぴたりと対応していると知ると、図像が急に読めるようになる。
ここが面白いところでしょう。
封印は本の内容を閉じる印でもありますが、同時に学びの段階を順に解いていく手がかりにも見えます。
オックスフォードの紋章では、知識は一枚のページに収まるものではなく、複数の学芸を通じて開かれるものとして描かれているのです。
大学の紋章が教育課程の理想をそのまま図像化する例として、これほどわかりやすいものはありません。
3つの王冠は何を象徴するのか
本を囲む3つの金の王冠には、二つの解釈があります。
ひとつは、学識と知恵に対する報奨と栄誉を表すという読み方です。
もうひとつは、神学・医学(physick)・法学という3つの基本学部(cardinal faculties)を象徴するという解釈で、大学が担う知の広がりを3つの柱に整理したものだと考えられます。
どちらの説でも、王冠は支配の印ではなく、学問の到達点に与えられる称揚として働いています。
加えて、3つの王冠はリチャード2世が1386年に第9代オックスフォード伯ロバート・ド・ヴィアに与えた王室授与に由来する可能性があるとも語られます。
断定はできませんが、ここには王権との結びつきが確かに見える。
だからこそ、オックスフォードの紋章は学問の自立と王権の承認を同時に背負う、珍しい重みを持つのでしょう。
赤の gules に金の or を合わせた配色も、その格調をいっそう際立たせています。
ケンブリッジ大学の紋章|白貂の十字と4頭のライオン
ケンブリッジ大学の紋章は、赤地の上に白貂の十字を据え、四隅に金色のライオンを配し、中央に留め金付きの閉じた本を置く構成です。
オックスフォードと並べて見ると、同じ学寮の象徴でも、ケンブリッジは赤・毛皮・ライオンで王権の気配を強く帯び、オックスフォードは本と王冠で学知の格式を前面に出す、という違いがくっきり見えてきます。
しかも中央の本は、ただの意匠差ではありません。
閉じていること自体が意味を持つため、ここを押さえると両校の紋章の読み方が変わります。
白貂(アーミン)の十字と4頭のライオンが示す王権と威信
赤地(gules)に白貂(ermine)の十字を置くと、面の強い赤の上に、白と黒斑の毛皮紋様が鮮やかに立ち上がります。
白貂は白地に黒斑の毛皮そのものを指し、中世以来、王侯や高位の象徴として扱われてきました。
品位、純潔、高貴な系譜を一度に背負わせる素材であり、大学という知的共同体に「由緒」を与える役目を果たしているのでしょう。
四隅の金色のライオン4頭も、装飾では終わりません。
passant guardant の姿勢は、前進しながらも正面を見据える王権のイメージを強く帯び、強さ、勇気、統治の威光を同時に示します。
英王室紋章との結びつきを想起させる配置でもあり、ケンブリッジが単なる地方学院ではなく、国家的な承認のもとにある学府だと視覚で告げるわけです。
赤地と金色の対比は派手だが、派手さの理由は明快。
威信を遠くからでも読ませる設計である。
中央の『閉じた本』が意味すること
中央の留め金付きの閉じた本は、ケンブリッジの紋章で最も見落とされやすいのに、実は最も重要な部位です。
最初は単なるデザイン上の違いだと思いがちですが、紋章学では本が開いているか閉じているかで意味が変わります。
ここで閉じられていることが、オックスフォードとの決定的な差になります。
開いた本が「顕示」を示すのに対し、閉じた本は知を秘め、必要なときに開くという態度を示す。
そう捉えると、ケンブリッジの学問観が少し見えてきます。
知識を誇示するのではなく、秩序のある継承として守る。
次の比較を見れば、そうした読み分けがさらにはっきりするはずです。
| 項目 | ケンブリッジ大学 | オックスフォード |
|---|---|---|
| 中央意匠 | 閉じた本 | 開いた本 |
| 色調の印象 | 赤と金で王権寄り | 本と王冠で学識寄り |
| 読み取れる性格 | 威信と系譜を強調 | 知の公開性を強調 |
モットー Hinc lucem et pocula sacra の由来と授与の歴史
モットーの Hinc lucem et pocula sacra は「ここから光と聖なる杯を」と読めますが、1571年の特許にも1573年の授与文にも記載がありません。
つまり、紋章そのものと一緒に古層から固定された文句ではなく、のちに結びついた語句です。
この点は、紋章を読むときに「図柄」と「文句」を同じ年代に置かないほうがいい、という教訓にもなります。
紋章の正式授与は1573年、ケンブリッジ州の巡察(visitation)で Clarenceux King of Arms ロバート・クックにより行われました。
ロバート・クック自身がセント・ジョンズ・カレッジ出身だったという縁も、ケンブリッジらしい内輪の歴史を感じさせます。
授与の年と人物がはっきりしているからこそ、モットーの後付け性も読みやすくなる。
ここで一度、紋章と文言を切り分けて眺めてみてください。
開いた本と閉じた本|大学紋章を読むための紋章学ルール
開いた本と閉じた本は、大学紋章の読み方を決めるほど意味が分かれる意匠です。
伝統的な紋章学では、開いた本は顕示・manifestation、閉じた本は助言・counselを示すとされ、同じ「本」でも向きが変わるだけでメッセージが反転します。
しかも本は多くの場合、聖書を含む知恵・知識・学問の象徴として置かれるため、単なる装飾では終わりません。
open book と closed book で意味が変わる理由
開いた本は、知が外へ向かって開かれている状態を示します。
自由に共有される知、学びを公開する姿勢、そしてそれを見せることで存在を告げる顕示のニュアンスが乗るため、オックスフォード型の解釈はそのまま大学の理念と結びつきやすいのです。
閉じた本は逆に、知を内に蓄え、慎重に授ける助言の含意を帯びます。
編集部で複数大学の紋章を表にして開閉・色・動物で分類したとき、見た目はばらばらでも、実際にはこの二分法が骨格になっているとすぐ分かりました。
本が象徴するのは、そもそも学問一般です。
だからハーバードやイェールのように、知の開放を前面に出す大学が開いた本を選びやすいのも自然でしょう。
身近な大学やブランドのロゴを見直すと、「これは開いている=顕示型だ」と読める場面が増えます。
記号を見抜く目が、そのまま紋章の読解力になるのです。
本以外の頻出モチーフ(王冠・ライオン・十字)の象徴
大学紋章は本だけでできていません。
王冠は栄誉や王権、ライオンは強さ・勇気・王権、十字は信仰やキリスト教的基盤を示します。
つまり、ひとつの紋章のなかで「学問」「権威」「信仰」がどう組み合わされているかを読む作業になるわけです。
ここを押さえると、単独のモチーフを眺めるだけでは見えない設計意図が立ち上がります。
ℹ️ Note
編集部で一覧化したときも、王冠・ライオン・十字は別々の意味を持ちながら、最終的には大学の格と理念を支える補助線として働いていました。見た目の派手さより、意味の重なりに注目してみてください。
たとえばライオンは勇猛さだけでなく、共同体を守る象徴にもなりますし、十字は宗教色を示すと同時に学問の起点を示すこともあります。
モチーフごとに意味を切り分けるより、組み合わせで読むほうが紋章学らしい。
おすすめです。
ティンクチャー(色と金属)の基本ルールで配色を読む
配色を支えるのがティンクチャーです。
紋章の色は metals の or=金、argent=銀 と colours の gules=赤、azure=青 などに大別され、原則として金属の上に金属、色の上に色を重ねません。
この制約は見栄えのためだけではなく、遠目でも判別しやすくし、格式と秩序を保つためのルールです。
このルールを知ると、紋章の色が単なる好みではないと分かります。
金は明るさと威厳、銀は清廉さ、赤は情熱や力、青は誠実さを帯びやすく、どの色をどこに置くかで印象はかなり変わります。
だからこそ、開いた本・閉じた本・王冠・ライオンを見たら、次に色の組み合わせを見てみましょう。
自サイトのティンクチャー記事とあわせて読むと、初見の大学紋章でも「本は開いているか」「何色か」「動物は何か」に分解して意味を推測できます。
これが、紋章を読む共通文法です。
ハーバード・イェール|アメリカの大学紋章とVERITAS
ハーバードとイェールの紋章は、アメリカの大学が英国式の紋章文法を受け継ぎながら、聖書とヘブライ語を前面に出して組み替えた好例です。
ハーバードでは3冊の開いた本に VERITAS を配し、イェールでは Lux et Veritas とヘブライ語の Urim v'Thummim を響き合わせることで、学問を宗教的真理と結びつけています。
どちらも単なる装飾ではなく、大学が何を知の中心に置くかを示す宣言になっているのです。
ハーバードの3冊の本とVERITASに込められた意味
ハーバードの紋章は、3冊の開いた本に『VERITAS(真理)』を分けて置く構図が核になっています。
原案は1643年12月〜1644年1月の理事会(Board of Overseers)で考案されたとされ、成立の時点から大学の理念を紋章そのものに刻み込んだ形です。
編集部として見ても、1語を3冊の本に割り振る大胆さは、紋章というよりメッセージそのものだと感じさせます。
この3冊は、上段2冊が旧約・新約聖書、下段1冊が未だ書かれざる未来の真理を表すとピューリタン的に読まれてきました。
つまり、すでに与えられた啓示と、これから学び取るべき知の両方を同じ図像に収めているわけです。
植民地の大学が、信仰と学問を切り離さずに育てようとした世界観が、ここにははっきり見えます。
ハーバードの紋章は、学ぶことがそのまま真理へ向かう営みであると告げているのです。
イェールの Lux et Veritas とヘブライ語の銘
イェールのモットーは『Lux et Veritas(光と真理)』で、盾の開いた本にはヘブライ語の Urim v'Thummim が記されています。
最初にこの組み合わせに気づくと、ラテン語の格言にヘブライ語が添えられている理由が少し不思議に見えるでしょう。
だが調べていくと、両者が同じ意味を二重に示すよう設計されていることがわかり、そこで強く腑に落ちます。
Urim の語根 אור は「光」であり、Lux に対応します。
Thummim の語根 תם は「完全・真実」を指し、Veritas に重なります。
つまりイェールは、ラテン語とヘブライ語で同じ理念を言い換え、神学的な重みを増幅させているのです。
ここでは本が知識の象徴であるだけでなく、聖書言語そのものが大学の正統性を支える記号になっています。
こうした精緻な対応は、単なる装飾では作れません。
イギリス式紋章がアメリカの大学でどう変化したか
ハーバードもイェールも、開いた本やラテン語モットーといったイギリス式紋章文法を引き継いでいます。
ただし、新大陸の大学ではその骨格の上に、聖書・ヘブライ語・宗教的真理の含意が強く重ねられました。
紋章が王侯貴族の威信を示す道具だったイギリス本国に対し、植民地の大学は、それを学問共同体の信条を示す装置へと翻案したわけです。
その変化は、開いた本を「読む」だけでなく「信じる」対象として扱う点に表れています。
ラテン語の格式を保ちながら、ハーバードでは VERITAS を3冊の本へ分割し、イェールでは Lux et Veritas に Urim v'Thummim を対応させる。
どちらも英国式の紋章文法を土台にしつつ、アメリカの大学らしく宗教的意味を濃くした翻案であり、知の権威を自らの言葉で再定義した例といえるでしょう。
ヨーロッパの大学紋章|ボローニャ・エディンバラ・セント・アンドルーズ
ボローニャ大学、エディンバラ大学、セント・アンドルーズ大学の紋章には、大学がどの土地に根を張り、何を誇りとしてきたかがそのまま刻まれています。
西洋最古級の歴史を掲げるボローニャでは創立年とラテン語の標語が正統性を支え、スコットランドの2校では聖アンデレ十字、アザミ、城、三日月、ライオン、本が地域と学問の関係を一枚にまとめています。
紋章は飾りではなく、大学の記憶を圧縮した装置だと見てよいでしょう。
ボローニャ大学:Alma Mater Studiorum と最古の大学の象徴
ボローニャ大学は、モットー『Alma Mater Studiorum(学問を育む母)』と創立年『A.D. 1088』を掲げることで、自らを西洋最古級の大学として位置づけています。
ここで示されるのは単なる古さではなく、長く学問を支えてきたという制度的な正統性です。
大学の歴史がそのまま標語になるのは、起源そのものがブランドであり、信頼の根拠でもあるからです。
アルキジンナージオの天井や壁を埋め尽くす数千の紋章を写真で見ると、編集部が「紋章はこれほど大学の記憶を蓄積する装置なのか」と圧倒されたのも自然でした。
学生・教授・パトロンゆかりの紋章が約6,000点も装飾されている空間では、個人の名残が建物の表面に積み重なり、大学共同体の時間が可視化されます。
建物自体が紋章の博物館であり、知の継承が言葉だけでなく図像で支えられてきたことがわかります。
スコットランドの大学(エディンバラ・セント・アンドルーズ)の聖アンデレ十字
エディンバラ大学の盾は、銀地に青い斜め十字、つまり聖アンデレのサルタイアを軸に、アザミ、岩上の城、開いた金の本を組み合わせています。
ここでは国、都市、学問が一枚の盾の中に同居しており、大学が単独の教育機関ではなく、スコットランドという土地の象徴装置でもあることが見えてきます。
アザミはスコットランドの国花として地域性を、城は市の起源を、本は学問を受け持ち、意匠の役割分担がはっきりしています。
セント・アンドルーズでも構図は鮮明です。
モットー『Ever to Excel(常に卓越せよ)』はホメロス『イリアス』のギリシャ語 Αἰὲν ἀριστεύειν(アイエン・アリステウエイン)に由来し、古典古代への敬意をそのまま大学の理念に変えています。
知の最高峰を目指す姿勢を、古典語の一節で支えるのがこの校風だと言えるでしょう。
地域・宗教・創立者が刻まれる欧州大学紋章の読み方
セント・アンドルーズの盾を読むと、図像が人物史まで引き寄せていることがわかります。
三日月は対立教皇ベネディクトゥス13世(ペドロ・デ・ルナ)、ライオンはスコットランド王ジェームズ1世の王権、開いた本は学問を表します。
大学紋章は抽象的な装飾ではなく、誰が関わり、どの権力と結びつき、何を理念としたかを一つずつ刻み込む記録媒体です。
この読み方をボローニャ、エディンバラ、セント・アンドルーズに重ねると、欧州の大学紋章は地域性と普遍性の交差点に立っているとわかります。
土地の象徴、宗教的由来、創立者の記憶、そして学問の理念が同じ枠内で競合せず共存する。
そこにこそ、大学が都市や国家より長く残る理由があるのではないだろうか。
大学紋章は誰が決める?グラント・オブ・アームズの仕組み
ケンブリッジの紋章は、勝手に思いついた図案ではなく、1573年にClarenceux King of Arms ロバート・クックが授与した正式な紋章です。
ここにあるのは、絵柄の好みではなく、誰が・いつ・どの権限で与えたかまで残る制度の記録である。
編集部でも「紋章は自由にデザインしてよいのか」と素朴に疑問を持ったが、grant of arms を知ると、紋章が法的・公的な裏付けを持つ意匠だと見えてきます。
紋章官(ヘラルド)と grant of arms の流れ
正式な紋章は、紋章院(College of Arms)等の紋章官(herald)による授与、つまり grant of arms を経て成立します。
大学の紋章がロゴと根本的に違うのは、ただ図像を採用するのではなく、公的な承認の筋道が先にある点です。
紋章は「それらしく見える」だけでは足りず、制度の側で成立している必要がある。
ケンブリッジの紋章はその分かりやすい実例です。
1573年、Clarenceux King of Arms ロバート・クックが授与した記録が残っており、意匠だけでなく、誰がいつ授与したかまで確認できる。
大学紋章を読むときに重要なのは、図柄の意味だけでなく、その背後にある授与の履歴まで見ることだ。
大学本体とカレッジで別々の紋章を持つ理由
Oxbridge では、大学本体の紋章と各カレッジの紋章が並立します。
とくにケンブリッジは31のカレッジで構成され、それぞれが識別のための紋章を持つ。
これは組織が一枚岩ではなく、大学という上位の枠組みと、カレッジという独立性の高い単位が重なっているからです。
紋章は、その階層構造を図像のレベルでそのまま映し出します。
この点を知ると、単なる装飾だと思っていた紋章の見え方が変わります。
大学本体の権威を示す盾と、各カレッジの個性を示す盾が併存しているのです。
制度の違いが、そのまま図案の違いになる。
そこが面白い。
ℹ️ Note
1つの大学の中に複数の紋章があるのは例外ではなく、むしろ組織の構造を見せる自然な結果です。紋章は所属を示す札であると同時に、上下関係や独立性の差まで語ります。
現代のロゴ化(シンプル化)と伝統的紋章の使い分け
現代の大学は、正式紋章とは別に、簡略化したロゴを使うことが増えています。
シンプルなシールドや本のアイコンのように、画面でも印刷物でも見やすい形へ整えるのが狙いです。
伝統的紋章は式典、証書、公式文書で重みを持ち、ロゴは日常的な広報で軽やかに機能する。
役割分担がはっきりしているわけです。
だからこそ、大学紋章は図像だけでなく制度まで含めて読む必要があります。
王冠や本が何を表すかに目を向けつつ、その意匠が紋章院(College of Arms)でどのように授与されたのかをたどると、理解は一段深くなるでしょう。
紋章院の記事も合わせて読むと、grant of arms の仕組みがさらに立体的に見えてきます。
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