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紋章が由来の企業ロゴ7選|実在の家紋・市章をたどる

更新: 編集部
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紋章が由来の企業ロゴ7選|実在の家紋・市章をたどる

紋章をルーツに持つ企業ロゴとは、都市や家系、地方に伝わる実在の紋章を、そのまま、あるいはほぼそのまま受け継いだブランドマークのことです。ポルシェの中央の跳ね馬と外周の鹿角、アルファロメオのミラノの十字とヴィスコンティ家のビショーネのように、1952年や1910年といった採用年まで追うと、

紋章をルーツに持つ企業ロゴとは、都市や家系、地方に伝わる実在の紋章を、そのまま、あるいはほぼそのまま受け継いだブランドマークのことです。
ポルシェの中央の跳ね馬と外周の鹿角、アルファロメオのミラノの十字とヴィスコンティ家のビショーネのように、1952年や1910年といった採用年まで追うと、ロゴが単なる意匠ではなく歴史の継承物だとわかります。

見た目が盾形であっても、史実の紋章を出典に持たなければ本記事では紋章風デザインとして分けて扱います。
紋章は色名や描き方に揺れがあるのに対し、企業ロゴは形や色が厳密に固定されるので、その違いを押さえるだけで見分け方はぐっと明確になるでしょう。

輸入車のフロントグリルや海外ビールの缶を見比べると、盾形や十字、動物の文法が今も生きていると実感できます。
だからこそ、どの紋章のどの部分を借り、いつ採用したのかを元の紋章から順にたどることが、ロゴの由来を史料で確かめるいちばん確かな読み方になるのです。

プジョーの鋸刃説やビショーネの十字軍由来説のような伝承は、採用年や商標登録年と切り分けて読む必要があります。
どこまでが記録で、どこからが言い伝えかを見極めながら、7社の事例を横断して追っていきましょう。

企業ロゴと紋章の関係:何をもって『紋章由来』と呼ぶか

紋章由来の企業ロゴは、実在する都市・家系・地方の紋章を出典に持つものを指します。
盾形で威勢がよく見えても、史実の紋章を借りていなければ紋章風デザインであり、ここを分けて読むだけで後半の事例の見え方が変わります。
紋章は色名や構成要素の組み合わせで成り立ち、企業ロゴはその一部を固定したものだと押さえると、両者の関係がぐっと整理されるでしょう。

紋章とロゴはどこが違うのか

紋章(coat of arms)は、azure=青、gules=赤のように色を名で定義し、具体的な色調や描き方は描き手に委ねられる。
だから同じ紋章でも見た目が少しずつ違うのは異常ではない。
むしろ、揺れを許す設計だからこそ長く使われてきたのである。
これに対して企業ロゴは、書体・形・色が固定され、勝手な改変を前提にしていない。
街頭看板やスポーツ中継で盾形ロゴを見るたび、文字の乗せ方や輪郭の強さで伝統感と可読性をどう両立させているかを見ると、紋章の文法が現代設計に生きていると分かるはずです。

紋章は盾だけで完結せず、クレスト(兜上の飾り)、支持物、モットーなどの集合でもある。
crestは紋章全体の同義語ではない。
企業ロゴがこのうち盾や中心図柄だけを抜き出して使うことが多いのは、情報量を絞って識別性を上げたいからだ。
輸入車ディーラーのカタログを複数ブランドで見比べると、同じ「盾+動物」でも由来の有無で意味の深さが違うと気づきます。
ロゴは紋章の全部ではなく一部を借りる、その基本パターンを先に押さえておきましょう。

『紋章由来』と『紋章風デザイン』を分ける3つの着眼点

本記事でいう『紋章由来』は、特定の都市・家系・地方の実在する紋章を出典に持つロゴに限ります。
盾形でドラマチックでも、史実の紋章を借りていなければ『紋章風デザイン』です。
この線引きは、見た目の雰囲気より由来を重視するためのものだ。
完全な紋章一式は法(紋章法)と商標法の二重保護を受けられるから、単なる装飾と歴史的継承を混同しないことが読み解きの出発点になります。

判定の着眼点は3つあります。
元の紋章が史料で特定できるか、採用年や商標登録年が記録に残るか、借りた要素が元紋章と対応するか、です。
たとえば、採用の時期が確認できても、図柄の対応が曖昧なら断定は避けるべきだし、逆に図柄が似ていても史料上の裏づけがなければ『紋章由来』とは言い切れない。
伝承と記録を分けて見る姿勢が、ここではそのまま評価の精度になる。

借りた紋章の出自:都市・貴族・地方の3タイプ

借用元は大きく3タイプに整理できます。
都市紋章は街のシンボル、貴族・人物紋章は家系のシンボル、地方紋章は州や地域のシンボルです。
1つのロゴが複数タイプを合成する例もあり、ポルシェは都市と地方、アルファロメオは都市と貴族の要素を重ねている。
こうした分類で見ると、同じ盾でも何を借りたのかが見え、ブランドの背景が立体的になるでしょう。

代表例をタイプ別に整理すると、構造がさらに明確になります。

タイプ代表例借用元補足
都市紋章ポルシェ、アルファロメオ、マセラティシュトゥットガルト市章、ミラノの聖ゲオルギウス十字、ボローニャのネプチューン噴水の三叉槍ポルシェは1952年採用、アルファロメオは1910年成立、マセラティは1926年図案
貴族・人物紋章キャデラックド・ラ・モット・カディヤックの家紋1701年にデトロイトを築いた人物の系譜に結びつく
地方紋章プジョー、サーブ、スカニアフランシュ=コンテ州の「青地に金獅子」、スコーネ地方の冠付きグリフィン由来の層が地方シンボルにある
屋号紋由来ステラ・アルトワ1366年創業の醸造所「角笛亭(Den Hoorn)」の角笛星は1926年由来、1988年に紋章的エンブレムへ整理

伝承はそのまま受け取らず、記録と切り分けて読むのがコツです。
プジョーの鋸刃由来説やビショーネの十字軍由来説のように、語られ方が先に立つ場合もある。
採用年、商標登録番号、図柄の対応がそろって初めて、史史の線が一本につながります。
そこで本記事は、見た目の似通いではなく、史料で確かめられる紋章の継承だけを『紋章由来』として扱っていきます。

ポルシェ:シュトゥットガルト市章と地方紋章を組み合わせたエンブレム

ポルシェのクレストは、中央にシュトゥットガルト市章の跳ね馬、外周に旧ヴュルテンベルク王国の鹿角と黒・赤・黄の配色を組み合わせた、都市紋章と地方紋章の合成例です。
1枚のエンブレムに市と州の由来を重ねる構造は、見た目の華やかさ以上に、ブランドがどの土地に根を持つかを示す設計だと分かります。
しかも正式採用は1952年で、創業期のイメージを後から地域の歴史へ接続した点に、この紋章の面白さがあります。

中央の跳ね馬=シュトゥットガルト市章

中央の跳ね馬は、ポルシェ本社のあるドイツ・シュトゥットガルト市の市章に由来します。
市名は『牝馬の庭(Stutengarten)』が語源とされ、馬が街そのものの象徴になっているため、ポルシェが中央に馬を置いたのは単なる動物モチーフではありません。
実車のボンネットを間近で見ると、この馬が独立した紋章の断片だと気づく人が多く、街の歴史をそのまま持ち込んだ意匠だと理解しやすくなります。

シュトゥットガルトを歩くと、市の旗やマンホールにも同じ跳ね馬が使われており、ロゴと都市の紋章が地続きであることが見えてきます。
クレストの中央だけを切り出しても成立する強い図形ですが、背景にあるのは観光用の装飾ではなく、都市の記号そのものです。
ここを押さえると、ポルシェのマークが「馬が速そうだから」では説明しきれないことがはっきりします。

外周の鹿角と色=ヴュルテンベルクの紋章

外周を囲む鹿の角と、黒・赤・黄のカラーリングは、旧ヴュルテンベルク王国、現在のバーデン=ヴュルテンベルク州の紋章に由来します。
中央の都市紋章だけでは個人商標のように見えますが、外周に地方の紋章要素を加えることで、企業が土地の系譜を引き継いでいることを一目で示せるわけです。
ポルシェの構造的な面白さは、1つの盾の中に「市(都市紋章)」と「州(地方紋章)」を上下に組み合わせた点にあります。

この組み合わせは、現地の文脈を知るほど読み解きやすくなります。
車好きの間ではエンブレムの精密さに目が行きがちですが、紋章学の見方で捉えると、色と形は任意のデザインではなく出自を示す記号です。
黒・赤・黄という配色も、単独で派手さを狙ったのではなく、地方の由来を残すための選択だと考えると腑に落ちます。

要素由来役割
中央の跳ね馬シュトゥットガルト市章都市由来を示す
外周の鹿角旧ヴュルテンベルク王国の紋章地方由来を示す
黒・赤・黄旧ヴュルテンベルク王国の紋章配色で系譜を補強する

ℹ️ Note

ポルシェの例は、紋章を借りた企業ロゴを読むときの基本形です。都市の記号と地方の記号を分けて見るだけで、図柄の意味が立体的になります。

1952年採用:複数の紋章を1つにまとめた設計

このクレストが正式採用されたのは1952年です。
創業そのものとロゴの確立には時間差があり、先に技術ブランドとしての顔が育ち、その後に地域のアイデンティティを1枚へ集約した流れとして読むと、図柄の選択理由が史実として伝わります。
採用年を添えて示すことが、単なる「かっこいいデザイン」ではなく、地域との関係を固定した記号だと理解する近道です。

ポルシェの例は、後述するアルファロメオと並べると整理しやすくなります。
ポルシェは「都市+地方」、アルファロメオは「都市+貴族」という合成で、どちらも複数の出自を1枚にまとめたタイプです。
3タイプ分類で眺めると、同じ紋章由来でも何を核に置くかが違うと分かるでしょう。
比較で見ると、ロゴの意味がぐっと鮮明になるのです。

アルファロメオ:ミラノ市章とヴィスコンティ家の大蛇

アルファロメオのエンブレムは、左の白地に赤い十字がミラノの市章である聖ゲオルギウス十字、右の人を飲み込む大蛇がヴィスコンティ家の紋章ビショーネという、都市紋章と貴族紋章を一つの円に収めた構図です。
創業地ミラノの歴史をそのまま背負った意匠だからこそ、単なる装飾ではなく、土地の権威と系譜を読み取れる記号になっています。
初めて分解して見ると右側は「蛇が人を食べている」図柄だと気づきにくいのですが、由来を知るとその不穏さと重みがはっきり立ち上がります。

白地に赤十字=ミラノの聖ゲオルギウス十字

左半分の白地に赤い十字は、聖ゲオルギウス十字と呼ばれるミラノの市章そのものです。
都市の紋章をエンブレムの片側に据えるやり方は、創業地への敬意をそのまま示す設計であり、アルファロメオがミラノと切り離せない存在であることを視覚的に固定しています。
単に「赤と白が美しい」から採られたのではなく、都市の公的な象徴を半分使うことで、ロゴ自体を地域の記憶に接続しているのです。

ミラノを訪れると、市の紋章や旧市街の装飾に同じ赤十字が繰り返し現れ、ロゴが街の歴史と地続きであることが見えてきます。
エンブレムの左側は、そうした都市の反復を凝縮した部分だと考えると腑に落ちるでしょう。
街角で何度も目にする形だからこそ、見慣れた記号がブランドの骨格になるわけです。

大蛇ビショーネ=ヴィスコンティ家の紋章

右半分の大蛇はビショーネと呼ばれ、中世ミラノを支配したヴィスコンティ家の紋章に由来します。
都市紋章の左と、貴族紋章の右を一つの円に同居させた構図は、ポルシェの「都市+地方」と対をなす「都市+貴族」の合成例として見ると整理しやすいです。
ここでは支配の象徴がただ混ぜ合わされているのではなく、ミラノという土地の政治史そのものが図案に刻まれているのが面白いところでしょう。

ビショーネの由来自体には、「ヴィスコンティ家の祖が人食い大蛇を退治した」「十字軍で倒した敵の紋章」など複数の言い伝えがありますが、断定はできません。
確かなのは、ビショーネがヴィスコンティ家の紋章であるという対応関係です。
装飾として見るだけでは読み落としやすいものの、由来を知ると、右半分が単なる怪物図ではなく、都市の支配者層の記憶を背負った記号だと分かります。

1910年、市電待ちの製図家が着想した由来

1910年、A.L.F.A.の成立期に、製図家ロマーノ・カッタネオがミラノのカステッロ広場の塔で見たビショーネを着想源にしたと伝わります。
市電を待つ間に思いついたという逸話も残りますが、これは「〜と伝わる」レベルの伝承として、成立年である1910年という事実と分けて扱うのが自然です。
実話か伝説かを切り分けて読むと、ブランド史の輪郭がかえって鮮明になるではないでしょうか。

この逸話がよく効いているのは、ロゴが机上の抽象図形ではなく、ミラノの街路で拾われた像として語れる点にあります。
アルファロメオの紋章は、都市の市章と貴族の家紋を組み合わせただけでなく、その発想自体も街の風景に根を下ろしている。
だからこそ、成立年の1910年から現在まで、見るたびに歴史の層が立ち上がるのです。

プジョーとシトロエン世代の自動車:地方紋章をほぼそのまま使ったライオン

プジョーのライオンは1858年に商標登録され、自動車ロゴとしては最古級の系譜を持つ。
出発点は自動車ではなく、看板商品だった鋼鉄製の鋸刃の品質を示す印で、歯の鋭さや刃の強さをライオンになぞらえたところに意味がある。
のちに車へ転用されたのではなく、産業の品質保証マークが長く生き残ったのである。

1858年商標登録:鋸刃から生まれたライオン

ライオンの意匠は金細工師ジュスタン・ブラゼールの手で考案されたとされ、矢の上に立つ姿が選ばれた。
鋸刃由来の説は伝承として扱うのが妥当で、確実なのは1858年の商標登録という記録だ。
由来の語りと記録を分けるだけで、ロゴ史はぐっと読みやすくなる。

プジョーの歴代エンブレムを画像で並べると、立ち姿のライオンから盾形を経て、平面的な現行ロゴへ移り変わっていく。
それでも核にあるライオンだけは170年近く残り続けており、形は変わっても象徴は消えていない。
ここに、ブランド記号としての強さがある。

フランシュ=コンテ州の『青地に金獅子』

1948年版以降のエンブレムは、自動車工場のあるフランシュ=コンテ地方の紋章『青地に金獅子』をほぼそのまま採り入れた。
産業由来のライオンが、後から地方の紋章へ寄っていった流れであり、プジョーの図柄は単なる動物モチーフではなく、土地の記憶まで背負う形になった。
旗や紋章を見比べると、この近さは一目で分かる。

フランシュ=コンテ地方の旗や紋章を調べると、プジョーのライオンとほぼ同じ『青地に金獅子』が現れる。
ロゴが地方の紋章を借りたという説明は、紙の上の由来話ではなく、視覚そのものが裏づけている。
おすすめです。

産業ロゴが地方紋章に寄っていった経緯

プジョーは、地方紋章をほぼ直接借りた型として見ると輪郭がはっきりする。
ポルシェやアルファのような合成型とは異なり、元の産業記号が後年に土地の紋章へ接近していったからだ。
サーブの地方紋章のグリフィンと並べると、獅子とグリフィン、フランスとスウェーデンという違いが、そのまま地方紋章由来の幅になる。

この型の面白さは、企業の都合でデザインを整えた結果として、逆に地域アイデンティティが前面に出てくる点にある。
プジョーのライオンは、工業製品の品質表示から出発しながら、最終的には土地の紋章と響き合う存在になった。
しましょう。

キャデラック:建設者ド・ラ・モット・カディヤックの家紋

キャデラックの社名とロゴは、1701年にアメリカ・デトロイトの街を築いたフランス人探検家アントワーヌ・ド・ラ・モット・カディヤックの家紋に由来します。
都市名や地名を借りたのではなく、個人と家系の紋章をそのまま企業の顔にした点が特徴で、人物紋章が社名ごと受け継がれた代表例として見ておけます。
初期ロゴを眺めると、現行の簡素な盾とは別物のように細密で、王冠やメルレットまで描き込まれており、紋章を縮小して転用した痕跡がはっきり残ります。

都市デトロイトの建設者の家紋

ド・ラ・モット・カディヤックの名がデトロイトの創設者として結びつくと、アメリカの自動車ブランドがフランスの貴族紋章を背負っている構図が見えてきます。
ここで面白いのは、ブランドの由来が土地ではなく人物であることです。
キャデラックは「どこで生まれたか」ではなく、「誰の家に属していたか」を前面に出した珍しいケースで、社章の由来をたどるだけで創業期の価値づけまで読めるでしょう。

4分割の盾と王冠・色の意味

キャデラックの紋章は4分割の盾、つまりクォータリングを基調にしています。
紋章学では、盾を区画に分けて複数の家系や来歴を表すやり方が基本で、そこに王冠や複数の色が重なることで、家柄や価値観の重層性が示されます。
単なる装飾ではなく、誰の系譜をどう継いだかを視覚で伝える仕組みだと考えると理解しやすいです。
色の象徴が加わることで、同じ盾でも意味は一段深くなる。
そこが肝心です。

ℹ️ Note

キャデラックの初期ロゴは、今の印象よりずっと情報量が多い紋章でした。王冠や鳥の意匠まで残したまま車へ載せたため、家紋を意匠化したというより、家紋そのものを移植した感触に近いのです。

1905〜1906年:家紋がそのまま社章に

この家紋は1905年に車へ使われ始め、1906年8月7日に商標(登録番号54,981)として登録されました。
年と番号がはっきり残るため、いつ社章として固定されたのかを具体的に追えます。
ただし、ヘンリー・リーランドがカディヤックの子孫とされる説は、その血縁関係まで断定せずに扱うのが適切です。
ここでは系譜の真偽と、商標登録という記録を分けて見ることが重要でしょう。
キャデラックは「家紋がそのまま社名と社章になった」純度の高い例であり、アルファロメオ右半分のヴィスコンティ家と比べると、貴族・人物の紋章を企業へ移す2つの形、半分だけ借りるやり方と丸ごと借りるやり方が対照的に見えてきます。

マセラティ:ボローニャのネプチューン噴水が持つ三叉槍

マセラティの三叉槍は、ボローニャ中心部のネプチューン噴水に立つ海神の三叉槍に由来します。
都市の紋章そのものではなく、公共モニュメントに宿る象徴性を借りた点が、このロゴを変則的で印象深いものにしているのです。
最初の工房から数百メートルという近さもあり、地元の記憶をそのままエンブレムへ移した感覚が強く残ります。

ネプチューン噴水=ボローニャの象徴

ネプチューン噴水は、ボローニャを歩くとまず目に入る都市の顔です。
海神ネプチューンが掲げる三叉槍は、単なる装飾ではなく、力と権威を視覚化した記号として機能しており、マセラティがそこから図柄を取った意味は大きいでしょう。
実際に現地で見ると、街のシンボルがそのまま企業ロゴになったことが一目で伝わり、ロゴの出自が抽象論ではなく場所の記憶に根ざしているとわかります。
だからこそ、この例は「紋章由来か紋章風か」を考える際の境界線を示す素材になります。

1926年、兄弟の画家が描いた三叉槍

最初の図案は、兄弟のうち唯一の芸術家だったマリオ・マセラティが1926年に描いたと伝わります。
機械工房のロゴでありながら、設計の出発点がエンジニアではなく画家だったことは示唆的です。
工房から数百メートル先にある噴水を見上げれば、地元の象徴を採り入れたいという発想は自然に生まれたはずで、そこにボローニャという土地の具体性があります。
三叉槍は神話上の海神ネプチューンの持ち物でもあり、動物や盾ではなく神話のアトリビュートを抜き出した点が、他の自動車ブランドと並べたときに際立ちます。

都市紋章ではなく『都市のシンボル』を借りた例

マセラティの面白さは、都市の紋章をそのまま借りたのではなく、都市のシンボルであるネプチューン噴水を採ったところにあります。
厳密には紋章ではないのに、都市のアイデンティティを視覚的に凝縮しているため、紋章由来ロゴの系譜に十分入れられる境界例だと言えるでしょう。
盾でも動物でもない三叉槍という選択は、知らなければ説明しにくいぶん、由来を知った瞬間の納得感が強い。
ここに、マセラティのエンブレムが長く記憶に残る理由があります。

サーブ/スカニア:スウェーデン地方紋章のグリフィン

サーブとスカニアのグリフィンは、スウェーデン南部スコーネ地方(Skåne、英名Scania)の紋章に由来します。
1660年から公式に使われてきた地方紋章であり、企業ロゴとして見ても出自の古さが際立つ図柄です。
初めてサーブの旧ロゴを意識して見ると、鷲の頭とライオンの胴をもつ合成獣に目が留まりますが、それが実在の地方の紋章だとわかると、印象は一変します。

スコーネ地方の冠付きグリフィン

スコーネ地方の紋章にあるのは、冠をかぶったグリフィンです。
単なる装飾ではなく、地域の歴史を背負った記号だからこそ、企業が借用したときにも「力強さ」だけでなく「土地との結びつき」まで運んでいます。
スコーネ地方やマルメ市の紋章を調べると、同じ冠付きグリフィンが現れ、サーブのロゴが数百年前の地方紋章につながっていることを史料で確かめられるのです。

スカニア・ヴァービスから受け継いだ系譜

このグリフィンが企業に入る起点は、スカニア・ヴァービスにあります。
鉄道車両・自転車メーカーの合併会社が、地方名と紋章を社名・社章に採ったことで、地方由来のシンボルが産業ブランドへ移りました。
合併によって生まれた社名に土地の名を残し、社章に紋章を刻むやり方は、企業が地域の信頼や格を引き継ぐ典型です。
系譜を見ると、ロゴは単なる図案ではなく、事業の来歴そのものになる。

1984年:地方紋章が自動車ロゴへ

1984年、そのスカニアのグリフィンがサーブの新ロゴに組み込まれました。
ここで面白いのは、地方紋章がそのまま自動車の顔になった点です。
プジョーの「青地に金獅子」と並べると、サーブのグリフィンは「地方紋章由来」という別の顔を持つとわかります。
フランスの獅子とスウェーデンのグリフィンを見比べると、地方紋章が国境を越えて企業ロゴに使われる広がりがはっきりします。

ステラ・アルトワ:1366年の醸造所『角笛亭』の看板紋章

ステラ・アルトワのロゴ中央にある角笛は、1366年創業のベルギー・ルーヴェンの醸造所デン・ホールンの屋号標識に由来する。
文字を読めない人にも通じる角笛の絵看板が、いまは缶やグラスの中心でブランドの核として残っているのだ。
自動車の紋章だけがロゴ史ではない、と感じさせる最古級の例である。

角笛=中世の醸造所の屋号標識

中世の宿屋や店先では、店名を文字ではなく絵で示すことが普通だった。
角笛はその代表で、ここでビールが飲めるという合図として機能したのである。
ステラ・アルトワのロゴに残る小さな角笛と『1366』の年号を見つけると、一杯のビールが660年前の看板に直結しているとわかり、見え方が変わるでしょう。

ヨーロッパの古い街を歩くと、今もパブや店先に角笛、鍵、船の絵看板が残っている。
ステラの角笛は、その屋号紋の延長線上にある。
店の印が商標へ変わり、形を変えながらも「どこで飲めるか」を伝える機能だけは途切れていない。
ここが核心です。

1926年に加わった星

『ステラ(ラテン語で星)』は1366年からあったわけではない。
1926年のクリスマス限定ビールに由来する後発の要素で、成功した商品名が星を呼び込み、名とロゴの双方に定着した。
創業年とブランド名の来歴を分けて見ると、角笛と星が同じ起源に見えない理由がすっと整理できる。

星は飾りではなく、商標の時間差を示す印でもある。
中世の醸造所名が先にあり、その後に限定醸造の成功が重なって星が加わった。
年号と意匠の層を分けて読むと、ロゴは一度決まった図形ではなく、売れ方や記憶に応じて増築されるものだとわかります。

看板紋から商標へ:660年続く系譜

1988年には、角笛・星・装飾枠・受賞メダルを統合した紋章的エンブレムへ整理された。
中世の屋号紋を核に、後世の星や受賞歴を紋章の文法で重ねたことで、古さと現代性が同居する形になったのである。
固定された伝統ではなく、時代ごとの要素追加で強くなるロゴの典型だ。

この系譜は、紋章が保存物ではなく更新可能な記号だと示している。
角笛は起点、星は後から加わった成功の痕跡、そして1988年の整理はそれらを一枚の文法に束ねた作業だった。
ステラ・アルトワを見るときは、中央の角笛だけでなく、上書きされてきた時間そのものを見てみてください。

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